Interview
miibo導入インタビュー
アジャイル開発で自治体担当者が創り上げたAIチャットボットが話題に—DX推進が進む横須賀市の挑戦
横須賀市
経営企画部デジタル・ガバメント推進室 主任 村田遼馬 氏
Point
導入の動機
・利用者中心の行政サービスの実現を目指した技術活用 ・専門分野の質問にも対応できるAIチャットボットへの関心 ・RAG環境を構築でき、導入ハードルの低いmiiboが条件に合致
活用方法
・「他自治体向け問い合わせ対応ボット」の開発・リリース ・「市民向けお悩み相談ボット」の開発・リリース
導入効果
・行政サービスにおけるAI活用事例の創出 ・問い合わせ対応の負荷軽減
自治体DXを推進したAIチャットボット導入の背景
RAG活用で専門特化したAIアプリを実現
横須賀市は2020年4月に「デジタル・ガバメント推進方針」を策定して以降、「利用者中心の行政サービスの実現」と「新たなイノベーションを創発できる地域の実現」を目的とするさまざまな取り組みに注力してきました。
本市の上地克明市長は、「誰も一人にさせないまち」というビジョンを掲げ、DXを通じて職員がより市民に寄り添いやすい環境を整えることを目指しています。上地市長のビジョンを旗印として、リスクを取って未来に投資するカルチャーが組織内にあることが、今回の取り組みの後押しとなりました。
私が所属するデジタル・ガバメント推進室は30名ほどいる部署で、情報システムの管理運営を行っている係などのほか、「デジタル・ガバメント推進方針」に基づいたさまざまな取り組みを企画して実行する推進担当のチームがあります。私は後者で、自治体のDX推進や、業務改善、業務最適化を担当しています。
昨年の4月にChatGPTの全庁的な利用を開始し始めましたが、「議会の議事録を読み込ませれば、答弁検討に活用できるのではないか?」といった、特定の分野に強いAIへのニーズ、期待がありました。そのようなAIを作るための手法を調べていたところ、有力視されていたのが専門知識を追加学習させるファインチューニング(微調整)という手法でした。しかしこれは学習元として多くのデータが必要ですし、コストもかかるうえ、それでいて必ずしも望んだ答えが出るとは限らないということが分かったのです。
この課題についてAI戦略アドバイザーの深津貴之氏に相談したところ、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)について教えていただきました。RAGとは、AIに辞書を引かせながら答えさせるようなイメージで、いわば外部データによってAIの知識を補強することで、特定の分野における回答の質を向上させる画期的な手法です。その流れで深津氏からご紹介いただいたのが、miiboでした。
きっかけは紹介ですが、そもそも当時RAGを簡単に構築できるサービスは少なく、あるとしても導入のハードルが高いものばかりでした。Web上で登録すればすぐに使えるmiiboを見て、すぐに「これだ」と感じました。画面が全体的に柔らかな印象で、技術に明るくない人でも使いやすいUIであったことも導入の決め手のひとつです。

横須賀市経営企画部デジタル・ガバメント推進室 主任 村田遼馬 氏
アジャイル開発で進めたAIチャットボット活用法
「ニャンぺい」など、市民と自治体双方のニーズに対応
2023年から2024年にかけて、「他自治体向け問い合わせ応対ボット」と「ニャンぺい(市民向けお悩み相談チャットボット)」という2種類のAIアプリケーションを開発しました。
2023年4月から検証を重ね、同年8月に本格運用を始めた「他自治体向け問い合わせ応対ボット」は、自治体からの問い合わせに自動応答するチャットボットです。私たちは最終的に市民向けのアプリケーション開発を目指していましたが、まずはある程度の誤差を理解したうえで使ってもらえる自治体に向けて開発することにしました。
ここで使用している知識データはシンプルなFAQ形式のテキストですが、当初、質問に対して望む回答がなかなか得られませんでした。そのため、わかりやすい形に整えたり、複数の表現で言い換えた知識を追加したりするなど、一定の工夫が必要でした。現在はOpenAIの最新モデルであるGPT-4oを使用しており、そのような工夫をしなくても、かなり高精度な回答を得られるようになりました。
続いて翌年5月にリリースした「ニャンぺい」は、市民向けのお悩み相談ボットの試作品です。市民の皆さまに使っていただくアプリケーションを開発するうえでは、AIが事実に基づかない情報を生成してしまう”ハルシネーション”などの課題があるため、慎重にならざるを得ません。万一AIが誤った情報を生成して、それが市民の皆さまの生命や財産に影響を及ぼすことはあってはならないからです。そこで、実用に足る回答精度を目指すために、あらかじめ現在のチャットボットの自動回答には誤りが生じるリスクがあることを開示し、その不具合をむしろ「見つけてほしい」という実験的な形で本サービスをリリースしました。
この公開実験のレポートは今後公表する予定ですが、多くの人に試してもらい、いくつかの不具合の報告をいただきました。今後、この知見を元にサービスの実装に向けて取り組んでいく予定です。
誤りが許されない地方自治体の取り組みで、このような公開実験を行うことは珍しいことかもしれません。これまでの生成AIの活用の取り組みやDX推進に積極的に取り組んできたことが、こういった実験的な取り組みを許容する土壌になっていると感じています。

お悩み相談チャットボット「ニャンぺい」
導入効果と波及—自治体DX事例としての評価
問い合わせコスト削減と行政サービスの向上
昨年4月にChatGPTを全庁利用することを公表して以降、非常に多くの反響をいただきました。トータルで100社以上の報道機関に対応し、自治体からの問い合わせは現在も続いています。その負担を軽減する意図も込めて「他自治体向け問い合わせ応対ボット」を公開したのですが、ごく基本的な問い合わせ対応をチャットボットがしてくれるようになったことは大きかったです。
「ニャンぺい」にも高い評価をいただいており、不具合の報告は想定よりも少ない印象です。より高度な機能を備え、個別化されたニーズに応えるものを作ろうとすれば多くの準備期間を要したと思いますが、気軽に使えるmiiboでミニマムに始めたからこそ、いちはやくこうしたAI活用の事例を作ることができました。
「他自治体向け問い合わせ応対ボット」の導入後、問い合わせ対応にかかるコスト削減には一定の効果を感じています。効果の測定や評価は簡単ではありませんが、少なくとも数千件以上の問い合わせが同ボットに寄せられており、ボットがなければその都度説明が必要だったことを考えると、時間の短縮が図られていると実感しています。

株式会社miibo 代表取締役 功刀雅士
総合行政ネットワーク環境を乗り越えた導入工夫
LGWANと連携可能なノーコードツールを採用
自治体におけるAI活用の最大の制約は、総合行政ネットワーク(LGWAN)を利用していることです。これは電子メールやWebサイトをセキュアなネットワーク上で利用するための仕組みなのですが、同ネットワーク上に置かれた諸々のナレッジは、AIサービスのあるインターネットからは分断されてしまいます。
AIにナレッジを読み込ませるためには、元データを外部に抜き出し、適切な形式に変換する必要がありました。そこで、まず取り出したいナレッジをkintoneに移行し、それをCSVデータに変換するという方法を採用しました。元のデータはさまざまなファイル形式やフォーマットが混在していたため、これを集約し、AIが理解しやすい形式に変換する作業には労力を費やしました。
AIにとってわかりやすいデータ、つまり機械可読性の高いデータを作成することは、AIを効果的に活用するために非常に重要な作業です。私たちの場合、LGWANと連携可能なkintoneなどのノーコードツールを活用し、そのツール上でデータを標準化してから書き出すという方法を採用しました。その他にも、APIを利用するなど、さまざまな解決手段が考えられます。
一方プロンプトの扱いについては、はじめこそ試行錯誤していましたが、想像していたよりもスムーズにキャッチアップしていけました。まず、私自身はもともとITが好きで、AIについても情報収集していたので、そういった日ごろの積み重ねが活きたと思います。また、日ごろからDX推進において現場の課題をヒアリングしている各々のメンバーは言語化能力が高く、具体的な指示を出すことにも長けている印象でした。
※ 現在はプロンプトのAI自動生成機能が搭載されています

データ標準化がもたらす自治体DXの未来
市民の暮らしやすさにつながるAI技術活用を目指して
今回の取り組みを経て、あらためてAI活用の手前にあるデータ整理が重要であることを実感しました。ファイル形式を整える手段や、その効率化についての検討は、すでに始まっています。データの標準化が進めば、AIでデータを活用することが容易になり、市民の皆さまにより良い行政サービスを提供することもできるのではないか、と私は考えています。
「各種お知らせをパーソナライズする」というアイデアは、その一例です。市役所からのお知らせや通知書などの多くは紙の書類を郵送する形にしていますが、必ずしも万人にとってわかりやすい記載内容であるとは限らないと思います。
そういったお知らせや通知の情報を、標準化され変換しやすいデータでAIに渡して、受け取る人にとって一番わかりやすい形に変換して届ける、といったことができるかもしれません。たとえば、長距離を走るトラックドライバーの方であれば、自宅に届く郵便物よりもラジオのような音声を通じて自治体のお知らせを聞く方が楽かもしれません。あるいはSNSをよく見る人であれば、タイムラインに流れてくるショート動画でお知らせを受け取ることができたら、きっとスムーズに内容を知ることができます。こういった形でAIを活用できれば、自治体が伝えなければならない情報がより伝わりやすくなりますし、情報を出す職員の手間やコストも大幅に削減できるのではないでしょうか。
技術進化はめざましく、テキストを音声化する技術をはじめ、あらゆる形式で情報を発信する手段があります。そうしたAIの変換技術を駆使し、市長のスピーチを英語に変換して外国人居住者に向けた動画で情報を発信するといった試みにもすでに取り組んでいます。今後も私たちは技術進化の動向を追いながら、より市民の皆さまが暮らしやすくなる技術活用を進めていきたいです。

2024年9月20日公開 ・ 文 宿木屋・写真 中嶋・編集 埜口
ご紹介いただいたmiibo事例
(横須賀市ChatGPT担当)チャットくん
2020年より横須賀市のDXプロジェクトとして深津氏をアドバイザーにAIを活用した地方自治体のあり方を実証実験するプロジェクトが始動。他の地方自治体向けの「横須賀市のChatGPTの取り組みの問い合わせ」に回答するチャットボットを作って、運用を開始。
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